「メントールののど飴を舐めすぎると、かえって咳が悪くなる」。そう説明されることがあります。元になった研究は実在しますが、そこから読み取れることは、見出しよりだいぶ控えめです。

ファイの30秒スキャン

その情報、ちょっとスキャンします。

  • メントールの摂取量が多い人ほど咳が重い、という関連を示した観察研究があります。
  • ただしこの研究では、メントール入りと非メントールで咳の重さ・長さに差はありませんでした。
  • 「咳が重いからたくさん舐めた」という逆向きの説明を、この研究では否定できません。

よく見る話

「メントールののど飴を舐めすぎると、咳が長引く」

スキャン結果

一部は正しい

摂取量と咳の重さに関連があるという報告は実在します。ただし、メントールが原因で咳が悪化・長期化することを示した研究ではありません。関連の向きが逆である可能性が残ります。

何が観察されたのか

きっかけは、ある家庭医の臨床上の気づきでした。原因のはっきりしない咳が続く患者の中に、咳ドロップを極端に頻回に使っている人がいた、という観察です。

それを確かめるために、米国ウィスコンシン州の5つのプライマリケア施設で、咳を訴えて受診した548人にアンケートが行われました。66.2%にあたる363人が咳ドロップを使っており、そのうち約90%がメントール入りの製品でした。

結果は3層に分かれます。

まず、咳ドロップを使っていた人は、受診時点での咳の持続期間が長い傾向がありました。一方、咳の重症度には有意な差はありませんでした。

次に、メントール入りと非メントールを比べた場合、咳の重症度(P=0.65)にも持続期間(P=0.17)にも有意な差はありませんでした。ここは重要な点です。この研究は「メントール入りだから悪い」ことを示してはいません。

そして、メントール入りを使っていた人の中で摂取量を見ると、1粒あたりのメントール量(R=0.19)、1日の使用個数(R=0.20)、1日の総メントール量(R=0.21)のいずれも、咳の重症度と正の相関がありました。年齢、性別、喫煙状況、季節、施設を調整しても、この関連は残りました。

同じ数字から、逆の物語も作れる

ここが、この研究のいちばん面白いところです。

「メントールをたくさん摂ると、咳が重くなる」という説明と、「咳が重いから、のど飴をたくさん舐める」という説明。どちらも、まったく同じ相関を生みます。この研究は一時点の調査なので、どちらが先かを決められません。

そして、咳がつらい人ほどのど飴に手が伸びるというのは、ごく自然な行動です。研究者自身も、その可能性を認めています。

「AとBがつながっている」ことと、「AがBを引き起こした」ことは別です。この研究は、その違いを説明するのにちょうどいい教材でもあります。

ファイ

相関の強さも控えめ

報告された相関係数は0.19〜0.21です。統計的には有意でも、咳の重さの大部分がメントール量で説明されるという意味ではありません。

メントールは、そもそも咳を抑える側でも研究されている

メントールを単純に「咳を悪化させる物質」と考えるのも、正確ではありません。

1994年の研究では、健康な成人20人にクエン酸で咳を誘発する試験を行い、メントールを吸入すると誘発される咳が減りました。慢性の咳がある患者を対象にした2013年の研究でも、メントールの吸入によってカプサイシンに対する咳の感受性が下がっています。

つまり、短期的には咳の反射を抑える方向の作用が報告されている一方、極端に大量・頻回に使い続けた場合に何が起きるかは、よく分かっていない、という状態です。

この研究をどう使うか

「のど飴は使わないほうがいい」という結論を出すには、根拠が足りません。一方で、咳が長く続いているときに、のど飴・トローチ・市販の咳止めをどれくらい使っているかを一度確認してみることには、意味があります。

1日中ずっと舐めている、1袋近くなくなる、といった使い方になっているなら、一度減らしてみて変化を見る。それでも咳が続くなら、咳ドロップとは別の原因を考える。この程度の使い方が、研究の内容に見合っています。

エビデンス・スキャン

確認したこと
メントール摂取量と咳の重さに関連はあるか
情報源
5施設・548人の横断的な観察研究(J Am Board Fam Med, 2018)
分かったこと
1粒あたりのメントール量、1日の使用個数、1日の総メントール量のいずれも、咳の重症度と弱い正の相関を示しました(R=0.19〜0.21)。
確認したこと
メントール入りは非メントールより咳が悪いのか
情報源
同研究におけるメントール製品と非メントール製品の比較(J Am Board Fam Med, 2018)
分かったこと
咳の重症度(P=0.65)にも持続期間(P=0.17)にも、有意な差は認められませんでした。
確認したこと
メントールには咳を抑える作用があるか
情報源
健康成人20人のクエン酸咳誘発試験(Thorax, 1994)/慢性咳嗽患者を含む二重盲検試験(Respir Med, 2013)
分かったこと
いずれも、メントール吸入によって誘発される咳や咳の感受性が低下したと報告しています。

どこまで分かっている?

ここまでは言える

メントール入り咳ドロップの摂取量が多い人ほど咳の重症度が高かった、という関連を示した観察研究があります。関連は交絡因子を調整しても残りました。

ここからは言えない

メントールが原因で咳が悪化したのか、咳が重いから多く使ったのかを、この研究は区別できません。一時点のアンケート調査で、使用量も症状も自己申告です。

「メントールでリバウンド咳が起きる」という仕組みも、証明されていません。どの程度から問題になるのか、という量の線引きも分かっていません。

のど飴との付き合い方

じゃあ、どうすればいい?

  1. 咳が長引いているとき、のど飴・トローチ・市販の咳止めを1日どれくらい使っているかを数えてみる。
  2. 極端な頻回使用になっているなら、一度減らして症状の変化を見る。
  3. 減らしても咳が続く、息苦しさや血痰などがある場合は、咳ドロップ以外の原因も含めて医療機関に相談する。

そもそも風邪の後の咳は思ったより長く続きます。咳がどれくらい続くかも合わせて読んでみてください。

ファイのまとめ

この研究が示したのは「関連がある」ところまでで、「メントールのせいだ」までは届いていません。ただ、ずっと舐め続けているなら一度減らして様子を見る、という確認そのものは損になりません。

ファイ